ヘンリープールの220年 〜職人技、顧客との絆、そしてイノベーション〜
創業220周年を迎えるにあたり、1806年以来、ヘンリープールを形作ってきた人々、顧客との絆、そして職人技を振り返ります。
創業者ジェームズ・プールは、1781年に英国イングランドの西部に位置するシュロップシャー州バスチャーチにて生まれました。1806年1月、彼は国が喪に服している最中にロンドンに到着しました。1月9日にネルソン提督の国葬が行われ、首都は海軍や陸軍の華麗な衣服で埋め尽くされていたのです。ジェームズはブランズウィック・スクエアとラッセル・スクエアの中間地点、エヴェレット・ストリート7番地に、リネン生地商兼女性用ドレス(マントゥア)仕立て屋として店を構え、すぐに軍服の仕立てに注力するようになります。その卓越した品質によってジェームズは名声を博し、正確さと見栄えが何よりも重視された時代に、精緻な仕立てで規定に完璧に則った軍服を製作する職人として知られるようになりました。
軍服には、細部、プロポーション、そして階級への厳格な順守が求められていました。こうした規律は、ジェームズの店のスタイルに深く根付くこととなります。需要の高まりとともに、事業は西へと拡大していきました。リージェント・ストリートへの移転は、ジェームズにとって初のW1地区での拠点となり、続いてオールド・バーリントン・ストリートへ移転し、セント・ジェームズエリアや宮廷生活の中心地へとさらに近づきました。1846年にジェームズが亡くなるまでに、彼は宮廷、軍、そして民間の顧客を満足させる一流の仕立て屋としての地位を確立し、息子ヘンリーに確固たる基盤を築いたのです。
ヘンリーは、職人技と鋭いビジネスセンスを兼ね備えていました。当時のサヴィル・ロウは、まだ仕立て屋街として知られていたわけではなく、主に内科医や外科医が集まる場所でした。ヘンリーは、そのような専門的スキルを有する人々こそが潜在的な顧客であると見抜いていたのです。大胆な戦略的決断として、ヘンリーは店舗をサヴィル・ロウに面するようにエントランスの向きを調整し、富裕層で目の肥えた顧客層に直接アプローチすることに成功しました。この決断はまさに変革をもたらせます。サヴィル・ロウ36、37、38番地に店舗を拡大したヘンリープール社は、やがて通りのほぼ3分の1を占めるまでに成長しました。
ヘンリーは、軍服の仕立てにおける卓越した技術を維持しながら、持ち前の魅力とカリスマ性で貴族階級のスポーツ愛好家たちとの関係を築き上げ、卓越した仕立て技術だけでなく、個人的な繋がりを通して顧客との関係を強化していきました。彼の最も著名な顧客の一人に、当時の英国皇太子(後のエドワード7世)がいました。1865年、皇太子はシルクのショート丈スモーキングジャケットとそれに合わせたトラウザースを注文しました。これはヘンリープール社のアーカイブに、世界中のフォーマルウェアを再定義することになる「現在のディナースーツ」の最古の例として記録されています。
“1806年の軍服からロイヤル・ワラント、そしてディナースーツの誕生に至るまで、ヘンリープールの歴史は、精密さ、顧客たちとの絆、そして進歩の物語です”
1876年、ヘンリーはクリフォード・ストリートの角に「リヴァリー部門」を設立します。50人から70人の職人を擁するこの部門は、厩舎スタッフ用のジャケットから、カムデン侯爵家をはじめとする英国の名家向けの豪華な正装まで、あらゆるものを製作しました。自動車が普及する以前の時代、地位は馬車隊によって示され、馬、馬車、そしてスタッフたちは豪華なリヴァリーを身にまとっていました。それぞれのリヴァリーは、所属する家門に固有のものであり、完全にビスポークで仕立てられていました。家紋や紋章を取り入れ、色鮮やかな極上生地で仕立てられた衣服には、金や銀の手編みのブレードが施されていました。
1876年にヘンリーが死去すると、事業は従兄弟のサミュエル・カンディに引き継がれ、後にハワード・カンディの経営下で発展していきます。1914年までに、ヘンリープール社は14人のカッターと300人以上のテーラーを擁し、1年間で3万8,000着以上の衣服を生産しており、その規模と国際的な地位を如実に物語るものでした。
王室からの御用達はその地位の根幹を長年支えてきました。2世紀近くにわたり、ヘンリープール社は世界中で40件以上のロイヤル・ワラントを受けており、その中にはヴィクトリア女王の治世以来継続して現在も維持されている英国王室のものも含まれています。ヘンリープール社が最初にロイヤル・ワラントを受けたのは1858年、フランス皇帝ナポレオン3世からのものであり、これが名だたる国際的な顧客層の始まりとなりました。
かつての皇帝からの注文記録を調べていたところ、「極細ブルーシルク裏地付きコート」という記述に注目しました。そのコートは、驚くほどシンプルでありながら優雅で、プールのテーラリングスタイルと完璧に調和していたのです。さらにその歴史を辿っていくと、この極細ブルーの生地を供給していたヴィターレ・バルベリス・カノニコ社にたどり着きました。1663年にイタリアのビエッラで創業した同社の記録には、1859年の生地発注が記されており、これはヘンリープール社の同年分の台帳の記載と完全に一致していました。
ヴィターレ・バルベリス・カノニコ社と緊密に連携し、ヘンリープール特製生地としてこの歴史的なスーパーファイン・ブルーを独自に再構築しました。両社は合わせて582年にも及ぶ職人技の歴史を誇ります。その結果生まれたのは、極めて繊細なヘリンボーン柄を特徴とする軽量フランネルです。生地の伝統を尊重しつつ、現代的な表現でその魅力を引き出しています。柔らかなパステルブルーと深みのあるRAFブルーをブレンドしたこの生地は、当初の注文を特徴づけていた静かな威厳と洗練された気品を見事に表現しています。
1806年の軍服からロイヤル・ワラント、そしてディナースーツの誕生に至るまで、私たちの歴史は、精密さ、顧客との絆、そして進歩の物語です。220年を経た今もなお、ヘンリープールは「伝統と革新を融合させ、卓越性を追求する」という不変の理念に導かれています。
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「ナポレオン3世 スーパーファイン・ブルー」は、2026年3月よりヘンリープール限定でビスポークオーダーにてご提供いたします。フルコレクションには、歴史的な絵画から着想を得たポケットチーフ2点と、現在もサヴィル・ロウ本店に飾られているブロンズ製のナポレオン・イーグルを再現した、格調高いカフリンクスが含まれます。



